高校生で母を亡くす恐怖
俺は今、一時間くらい泣いている。
ユーチューブとかで気を紛らわせても、二時間おきくらいに泣きたくなっている。
今日は父と姉と3人で、車に乗って母親を迎えにいった。病気だっていうのに、仕事が好きすぎて、白熱した会議を繰り広げていたらしい。きっとしんどいだろうに。
帰りの車中、母と父はこんなことを言っていた。
「先週の土曜日くらいから体調がいいんだよね」
「それは良かった、あれでも一昨日くらいに……」
「あーそういえば吐いたね、やっぱ体調悪いみたい。あれは飲みすぎかな?」
なんて、普通に会話していた。俺はその会話に入ることはできなかった。
母さんのガンは確実に体を蝕んでいた。よくよく思い出すと、思い当たる節はあった。
最近は妙に体調が悪いことが多かったり、気だるい休日も多かった。元々アクティブなはずだったのに、最近は家で料理をすることが多くなった。
今日だって、ゴディバのアイスを俺にくれた。ただ単に食べる気がなくなっただけなのかもしれないけど、なんか嫌な感じがする。
晩御飯は唐揚げだった。俺は母さんの手料理の手伝いをするのが好きだ。だから手伝っていると、何もしない親父に対して、かあさんは怒った。
「あんたはいっつも何もしない、息子はやってくれるのに。もしメチャクチャ気の利く旦那だったら、晩御飯が用意されててもいいくらいでしょ!?」
親父は何か言いたそうだったが、自分が悪いと思ったのか反論はあまりしなかった。
多分、母さんはやっぱり体調が悪かったんだろうか。母親はどんなにしんどくても晩御飯を作ると聞いたことがある。妙に口数も少なかったし、本当は辛いのを我慢して作ってくれていたのだろうか。
喧嘩も落ち着いてくると、母さんは自分の余命宣告の日に、俺もくるかと聞いてきた。
最初はショックが大きいから連れてかないと言っていた母さんだったが、俺は直接お医者さんに聞いたほうがいいとついていくことにした。
正直、今は後悔している。ただでさえ、毎晩泣いているのに、正確な余命宣告なんてされたら、耐えられるだろうか。
そして、母さんはさらに話し始めた。
「本当は、あんたの高校卒業とか、成人とか、就職とか、結婚とか見たかったの。でも、それもしょうがないから」
俺は泣きそうになった。母さんも物憂げな顔で言っていた。
俺だって、母さんに見せたいものなんていっぱいある。留年せずに大学行けたよとか、自慢の彼女とか、いい会社に就職したよとか、結婚とか、孫の顔とか、いっぱい見せたいものがあるんだ。
なのに、勝手に諦めて死なないでくれ。死んでほしくない。そんな感情がさっきからずっと忘れられない。
そのあと、家族でミュージック番組を見ていたら、ふと母さんがこう言った。
「もし行けるなら、ミスチルかサザンのライブ行きたいな、それかヒデキ」
「それなら、ヒデキなら一番取れそうだなw」
と父さんが返す。だけど、また俺はこの会話に入れなかった。母さんは、もう先が長くないことを強く意識しているんだと。50先の話なんて全くしなくなった。あと5年も生きるつもりはないのかもしれない。
かあさんは、まだ仕事を続けたいらしい。
本当は、病気なんかにならずに現場にいたいらしい。どうやら、大きなイベントを開催するらしく、母親はそれに没頭しているのだ。帰ってきても会社の仕事の話ばかり、いつも仕事の話をあまりしない母さんがここまで熱中できる仕事につけたのは、とても良かったと思う。
もし亡くなるとしても、嫌な仕事じゃなくて、好きな仕事をして終わったほうがいいからだ。
でも、母さんはこう言った。
「死ぬことに後悔とか、怖いとかないんだ。ただ、無念…それだけ」
俺はいま、深夜四時にこのブログを書きながら泣いている。期末テストも迫っているのに勉強に手をつけられない。母さんを不安にさせないためにも、留年はできない。だから、勉強しようと思うと、母さんの死がちらついて泣いてしまう。
どうすればいいのか、暗闇に放り込まれてお先真っ暗だ。
だけど、俺の大好きなバンド、THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトは、こんな言葉を残していたんだっけな。
甲本ヒロト
未来は真っ暗。お先真っ暗というのはすげー前向きな言葉だよ。真っ暗なんだよ。どこがいけないんだよ。そん中にすっげー誰も見たことがない、どんなに勉強したってわかりっこない、素晴らしいものが隠れてるかもしんない。真っ暗ってことはいいねえ。みんな平等で。